友情と呼ぶには甘過ぎる何か。




【プロローグ:匂い檜葉の精油】

少し甘い芳香の油を使われて、
「いつもと違うやつか?」
と聞くと、
「はいー。とても良い香りでしょう?」
この場に相応しくない健全な笑み。
甘いと言ってもパインの様な子供っぽい香り。
後から知ったんだ。
意味は堅い友情だとさ。

何に使った?野暮なこと聞くなよ。

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【第一話:匂い檜葉の憂鬱】

---Side: Oscar---

全く参ったぜ。

いつものように打ち合わせを終えて、退室すべく席を立った時。
「香りを変えたのか?」
と唐突な、それも堅い声音での問い。
「・・・え?えぇ、まぁ。」
我ながら、みっともなく上擦った声で返した訳だ。
だが応酬は終わらない。
「・・・何故言い淀む?」
くい、と上がった片眉に、
「私の香り等ご存知だったのかと。」
なんとか笑顔で躱すと、
「ふむ。では言い方を変えるか。ここの所は特定の相手が出来たのだと思ったが。・・・趣旨替えか?」
ジュリアス様らしい生真面目な顔で、しかしらしくもない、やや下世話な詮索。

相手は変わってませんが、趣旨替えと言えばそうですかね。・・・って、言えるかそんな事!

俺は答えに窮してから、
「俺の私生活にご興味がおありで?」
と逃げ切ったつもりで笑った。
だが、あの方は優しげに微笑んでから、
「大いにな。」
等と仰って、俺を仰天させる。
「お戯れを。」
と、笑顔を引きつらせつつとは言え、なんとか口にして踵を返した。
部屋を出る俺の背に、
「オスカー。今宵は共に夕食を摂りたい。話がある。」
と願望の形の命令が告げられた。

---Side: Luva---

私の所へオスカーがやってきて、顔を見るなり経緯を捲し立てると、
「で、今からジュリアス様の邸宅に行く訳だが。何か俺に言う事はないか?」
と睨むようにして聞く。
私は唐突過ぎる情報提供に、圧倒されつつも、思った事を言った。
「えー。そうですねぇ。貴方は『お戯れを』と言う台詞は使われ慣れていても、使う事は無いと思っていましたよ。少々驚いておりますかねぇ。」
「俺だってそう思うさ!というかンなこたぁ良いんだ!他に言う事は無いのか!!」
「そんなに大きな声を出さずとも聞こえていますよー。」
「もういい!!行ってくる!!」
鼻息も靴音も荒々しいのに、不似合いに礼儀正しくドアが閉まる。
「何でしょうねぇ。この釈然としない感じは。」
私は小さく溜息を吐く。縛るつもり等、毛頭ない。
けれど。
「あー。もしかして、オスカーはあの香り油を使った事を怒っていたのでしょうかねぇ。」
考えていた事と別の事を思いついて、苦笑する。
問題はそこでは無い。
ジュリアスがオスカーの香りに興味を持ったのは今日ではないのだろうから。
寝室に行き、精油を手持ちのレターセットに、ほんのりと含ませる。
子供染みた香りはオスカーには似合わない。けれども堅い友情という曰くが気に入った。
恋情でなく友情。そう、今はこれで一向構わない。

書き出しは、
「親愛なるジュリアス」
・・・無難に過ぎますかね?



続。
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