7/21と7/22のパチコ、連打、誠に有り難うございましたー!
元気を頂いておりまする!!
以下は、光闇とランセイの小話(twitterにて投稿させて頂いたもの)です。続きからどうぞ〜♪
光闇(チュウ止まり。逆にも読めるかも。闇様の退任話です。)
【秘密の庭】
聖地には謎の花園があり、その鍵は代々緑の守護聖が管理していると記録にある。しかしカティスやマルセルからそのような話は聞いた事がなく、一度訪ねた事があるが知らぬと言われ不思議に思っていた。
「そうか。此処が。」
知らず口の端が僅かに上がった。昔馴染みは、
「初めてであろう。」
と深くうなづいて応じる。
「ここは首座の直轄か?」
「いや…送る者と送られる者の為に用意された場だ。」
ジュリアスの珍しい言い淀み。しかし今日の私にはそれに突っかかる心算は無い。
「そうか。だから今、お前と私か。」
華美でなく、けれどもこの世のものとは思えぬ程の、美しい庭は、見た事のない種の花に彩られている。
「誰が管理を?」
「誰も…。女王と守護聖のサクリアにより、この場は維持されているという。」
男は手近な一輪に手を翳し、けれどもその群青は何処か遠くを見ているようだった。これでは、まるでお前が送られる側のようだ。
フッと自然に苦笑が漏れ、
「永きに渡り、世話になったな。」
自然と口にした。拗れた関係に合わぬ、自然さに、己でまた笑う。ジュリアスはどこかボンヤリと私に視線を戻し、随分私の顔を眺めてから。くしゃりと顔を歪めた。
泣くのではないか、と少し思ったが、男は泣かず、
「そうだな。」
と口にして顔を歪めたまま笑んで、視線をまた花に戻した。
「そんな顔をされると、先に逝くのが忍びないではないか。」
クックと喉を鳴らして言う。今日は不思議なほど、心が凪いでいた。この花園の効用かもしれなかった。
「笑うであろう。散々お前に文句を言っておいて、逝くな、と今言うのを堪えていると言えば。」
男の視線を辿り、私はその不可思議な花の向こうに、過去を見る。私が聖地に来たばかりの頃のジュリアスの姿がありありと其処に蘇る。
懐かしさに笑みがこみ上げ、私は額に手を当てる。
威丈高に、寂しげな瞳した馴染みの少年。
知らぬ間に、男はこちらを盗み見ていたようだった。
「やはりな。」
私は頭を振って応える。
「昔を思い出したのだ。お前は、いつでも高圧的に、私に瞳で寂しいと言った。不思議なものだ。まさか音を伴って、その気持ちを聞く日が来るとはついぞ思わなんだ。」
「一つ願いたい。良いか。」
男はやや唐突に、身体ごとこちららを向き直り、私を睨みつけるようにして、やはり高圧的に言った。
「なんだ。」
語尾を落とし、笑んで問う。
「目を閉じよ。」
男の命をほとんど初めて無条件に受け入れ、私は目を瞑った。
「少し膝を落とせ。」
命ぜられるままに膝を緩く折る。
「そのまま。」
と呟くように言って男がカツカツと足音をさせて私に近づく気配。不意に唇に柔く熱いものが触れ、すぐに離れた。
驚いて瞼を開けると、あり得ぬ程に赤面したジュリアスが、
「まだ目を開けて良いと言っていない。」
と言って、視線を斜め下に落とした。なんと答えたものか、分かりかねる。ややあって、
「お前がまだ卒業していなかったとは驚きだな」
と言うと。
「何を馬鹿な。」
と男は頭を振った。鼻先を金髪が擽る。
「カティスの悪戯の影響だろう。」
私が曲げていた膝を伸ばして笑って首を傾げると、
「そうではない。私は真剣に…!」
と言いかけて黙った。
「ならば喜んで受け取ろう」
私が機嫌よく言ったのが、よほど意外だったのか。ジュリアスは豆鉄砲でも喰らったかのような珍妙な顔で私を見上げた。
「お前も私も飽くほど生きた。だから愛だ恋だとは言わぬ。けれども、する事もない。精々、お前を待って生きるとしよう。」
光の守護聖は、ギュっと顔の構成物を中央に寄せて、それから表情を無くし、一粒だけ、左目から涙を零した。それから口元を右手で強く隠す。嗚咽を耐えるように。音なき沈黙。
「お前が私を待てる等信じぬ!」
やがて絞り出された悲痛な叫び。
「お前を待って生き終わるのも、また一興だと思うが。」
少々持て余しながら、それでも目の前の哀しげな男に、精一杯の誠意を掻き集め告げる。
「役目を終えて貴様の墓参りを最初にする身にもなれ!」
大真面目に男は吐き出すが、これには堪えきれなかった。
「はっはっは!」
久方ぶりに声を大きく出して笑う。ジュリアスの胡乱な瞳が痛いが、こればかりは仕方あるまい。
「お前は偶におかしな事を言うのだな。」
言ってやってから、己の目尻を擦って
「安心せよ。そう簡単には死なぬ。」
と続ける。
永く連れ添った男は、もう何も語らず、ただ、こくりと黙って顎を引いた。
幾人もの守護聖を送った聖地の門の前に立ち宮殿の方角を振り返る。幾人かの守護聖が良いと言ったのに送り出しに立ち会っており、以前なら鬱陶しく思う所を奇妙に清々しく受け入れていた。
馴染みの男は来ていなかった。
「さらばだ。」
と、宮殿に向かって言うと、立ち会っているもの達が応える。
その声に交じって聞こえぬ筈の首座の声を聞く。幻聴に、私は初めてその男に対し、皮肉でない笑みを送る。
くるりと踵を返し、門をくぐる瞬間、花園で嗚咽を耐える男の幻影を見る。そして幼き頃の威丈高で寂しげな瞳を。
私は緑でも水でもなく、闇の眷族なので、植物とは相性が悪いかもしれない。
しかし安らぎと植物とはどうであろうか。うまく行かぬかも知れぬが、待ち人の間は花園を作ってみるとしようと、私は笑みを深めた。
終。
続きまして、ランセイ〜。抱っこ止まり。
【白のゼラニウムと終わらぬ恋】
信じたくないんだ、と暗に示す為に僕は白のゼラニウムをポストカードに描いた。彼は案の定ルヴァ様やエルンストに意味を尋ねて回ったらしい。それから血相を変えて僕の部屋にやってきた。
バン、と乱暴に扉が開き、ずんずんと彼が近づいてくる。僕はヤレヤレと肩を竦めて迎える。なのに。
「『信じられない』って一体何がですか!」
その勢いと真剣さに突如僕は笑い出してしまった。そこからなのか。僕はお腹を抱えて笑う。
そのうち自分のいじけた気持ちがどうでもよくなってくる。
「一体、何がだろうね。」
目尻から滲み出た涙を拭って言うと、
「そうやってまた子供扱いするんですね。」
と言って、突然、やや乱暴に僕を抱きしめる。しっかりとした腕と胸板の感触。
君の匂いに包まれる。
子供だなんて、思わない。
だけど、それを素直に言う気にもなれずに。
「・・・苦しいよ。」
とだけ言った。思いがけず、泣きそうな声になる。
そうだ、苦しいんだ、と僕は思った。信じなくて、済めば良いのに。そう、そうできれば・・・。
そんな自由すら、僕から奪うなんて。君はなんてズルい男だろう。
白のゼラニウム:「私はあなたの愛を信じない」
終。