ローズマリーティーと孤独で簡素な食卓




お湯を沸かす。
『また薬臭い茶でも飲むのか』という遠い彼の地の声を聞く。
私は苦笑して茶器を広げる。
彼とは悪態をつきあった記憶しかないのに、何故こうも日常に彼の思い出が閃くのか自分でも理解し難い。

少々のパンを粥にして、お茶を入れ、ダイニングの簡易テーブルに一人。

―――いつまでこうして生きようか。誰かが死んでもいいという日まで・・・?

思い出したように、私を尋ねてくれるのは、山で取った薬草や、その薬湯を求める人々。
「先生。先生の薬はよく効きます。」

―――誰かが私の僅かな知識を役立ててくれる、その間・・・?

『また詰まらん事を考えてでもいるんだろ?』
えぇ、そうなのです。此処には貴方が居ないから。
喧嘩も自然と独り言になる。
淋しくはない。
けれど、時折。激高した貴方の声が無性に懐かしい。
煩わしいとしか思っていなかった。

なのに。

けれども、そう。
思い出の貴方は悪態ばかりだけれど、とても穏やかなので。
なので、少し物足りないのかもしれません。

確かに薬臭いと評する事もできる味の茶を、ほんの 一口飲んでから。
私は小さく苦笑した。



ローズマリーの花言葉:「追憶」「記憶」「誠実」「あなたは私を蘇らせる(治癒)」「静かな力強さ」