寂寞のエリカを抱く蒼天




時折、神様みたいに見えるのは、貴方が守護聖だからなのかい?
それとも、何か違った理由からかな?

でも残念ながら、貴方以外のキラキラしい守護聖様がたが、本当に神様みたいに見えた事はないんだ。
だから、これは僕の研ぎすまされた感性が、鈍ってしまったと、そういうことかな?

それとも、何か別の・・・。

君のことが好きだと自覚したのは、いつの頃だっただろう。全く思い出せない。
そもそも今も好きじゃないのかもしれないとすら思う。いや…それはいくらなんでも無理があるね。僕は僕の直感にこれまでずっと正直に生きてきたつもりなんだ。だから今回も潔く認めるべきだと思う。
そう、多分、君のことが好きだよ。
気がつけば、貴方のことを見つめ、その細部の造形を殆ど無意識に確認してしまう程度には・・・。ああ、うん。分かったよ!多分、相当に!!

だけど、どうかな。君は守護聖様。僕は単なる期限付きの教官だから。そう、いくら貴方が「ずっと一緒に居よう」なんて言ってくれたところで、僕には空手形を切られてるのと大した違いはないのさ。んん?もっと感性の教官らしい表現をしろって?
そうかい?じゃあ言い直すよ。「空手形」を、守られる筈のない、「空虚な約束」とかにね!

僕は貴方といると、いつも何かに苛立っていて、貴方はそれを、ちょっと悲しい目で見つめる。だから僕はいつだって余計に苛立った振りをしなくちゃならないのさ。
だって、僕は・・・。

僕は・・・。

僕は。

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「どうにか、なりますよ。」
彼は僕のアトリエで笑って言った。さっきまで彼の上半身の、特に肩甲骨の辺りを描いていたので、彼は上半身裸のまま。だけど、自分で持ち込んだコーラを瓶のまま、口をつけて飲んだ。けれどもサッパリ品が悪いようには見えないのは、その人懐っこい笑顔のせいだろうか。
簡素な木に布を張っただけの椅子に、彼は文句も言わずに後ろ前に座る。
この構図もいいな、と僕はぼうっと思った。

人物画ばかり描くと、色彩の感覚が鈍るので、僕は人物画ばかりを連続して描かない。いや、描かなかった。でも今は、描きたい構図が目の前でチラチラして、結局人物ばかり描いてる気がする。
いいんだ。ルールや技術向上なんて、下らない。描きたいと思うものを描くのが当然、そして一番、僕にとっては重要だから。
なのになんで、こんなにムカムカするんだろう。
描きたい、これは僕にとって、とても素朴な、素直な欲求の筈なのに。

「何が、そんなに悲しいんですか?」
ランディ様が、ちょっと辛そうな顔で首を傾げる。
何にそんなに腹を立ててるんですか?とは、もう聞いてもくれないのか。
「僕が、悲しんでいると?」
絵筆を手にしたまま、同じく簡易な作りの椅子を移動させて、彼から少し距離をあけ、向かい合うように、腰掛ける。足をゆっくりと組んで、その上で長い筆を持ったまま、手を組む。
汚れた床(といっても作業用の布を引いてある)に散らばる色とりどりのペーパーパレット…だった、紙くず。
やはり所々油絵の具やアクリル絵具で汚れた僕たちが座る椅子。
今日は日が差す部屋を作業場に選んだから、この部屋の大窓からは、春の午後の光線が入ってきて、白っぽい部屋をジワジワと焼いてる。
なんだろう。下らないなと思う。
僕のイライラも、僕の「悲しみ」も。
この白っぽく汚れた部屋で、手を伸ばしても届かぬ距離で。
青年か少年か見分けのつかぬ、半裸の男性が、少し汗っぽい日焼けした肌を晒してる・・・この事実に比べれば、実に下らない、どうでもいい事だと思う。
彼の上腕から下腕へと描かれる美しい稜線の存在に比べれば、どうでもいいと。

まさかね!!
そんな筈はない。
事実とは感じたことの集合体な筈だろう。少なくとも、僕にとっては。
だから、一つの事実が、僕の感情の動きより重要だなんて、ありえない・・・筈だ。
まして絶対的な美の実存だって?既に、そのワーディングだけで笑えるじゃないか?

そう。少なくとも、今までの僕にとっては。

それから思う。どうしよう。僕はこんな、基本的な事にすら自信が持てなくなってしまったと。
気付いてしまって、それから途方に暮れる。

「セイランさんが、悲しくないなら、俺もその方がいいです。」
後ろ前に座ったまま、その華奢な背もたれの上で、緩く組まれる彼の両手は、それなりに筋肉質だ。片手にぶらりと軽く支えられた、コーラの緑色した空き瓶。
顎を腕の上に乗せて、にこりと爽やかな笑み。
「元に、戻してよ。」
僕は瞳を落として、彼の両足に挟み込まれている椅子の、布の背もたれを見やる。
カタン、と席を立つ音。それから僕の椅子の前の彼がしゃがみ込んで、僕の視界に無理矢理割り込んでくる。見上げる貴方は心配そうな顔。
するりと彼の右手が伸びて、ちょっと戸惑うように止まってから、それでも髪に優しく触れる。コーラの空き瓶を床にコトリと置いて、首を傾げられると、どうしようかなと思う。

―――触れて欲しい。その堅い手で。

と、思うと同時に、

―――何か罵ってやりたい。そのまっすぐな瞳に。

と、思うから。だから、どうしようかなと思う。それで、
「元に、戻して下さいよ。」
剣呑な声で、やや口を尖らせて言う。きっと意味なんて分からないだろうから、付け足す。
「僕は、貴方のせいで、随分悪い方向に変わってしまった。だから、元に戻して下さいよ。」
すると、彼はなんと、屈託なく笑った。
「あ、ごめんなさい。俺のせいで、セイランさんが変わったのかと思うと、ちょっと嬉しくなっちゃって。悪い方向って言われてるのに。なんか、おかしいですね。」
エクスキューズする癖、顔は笑顔のままで。僕は自分の顔が真っ赤になるのを自覚する。ああ、もう!なんて!なんて!!腹が立つんだ!!この人は!!
僕は思わず席を立って、床に跪く彼に顔を横から近付ける。それで、ちょっと吃驚してるみたいな彼の表情に満足して、顔を傾けて徐にキスする。
もう何度目になるか分からないのに、何故か最初は真摯に受け止めるような気配。でも僕が一度唇を離して、瞳を見合わせてから、もう一度キスすると、今度は彼は口を開けて、性急に僕の舌を求める。逃げるような素振りをすると、しつこく追いかけて来て、僕の頭を掻き抱くようにしてグイと彼の手が引きつける。戯れるような応酬を繰り返すうち、ズルズルと姿勢が崩れて、結局僕は床に倒れ、彼を下から見上げる羽目になる。唾液が呑み込みきれずに、顎に伝うのを、指先で鬱陶しく拭うと、その手を強引に掴まれた。
年頃に似合う、切羽詰まったような顔つき。だけど、その瞳は真摯で、僕はそのギャップになんだか居たたまれなくなる。

―――僕は、この人を、いつか裏切るんだろう。

殆ど確信する。それで僅かに瞳を伏せようとするのに、彼の空いた右手が、僕の髪を額から掻き上げられて、また目が合ってしまう。スッと近づく端正な、日に焼けた顔。チュ、と軽く彼の唇が僕の唇に落とされて、それからまた舌が押し入ってくる。今度は逃げるなんて気になれなくて、僕も深く深く、彼の舌を追い求める。舌を擦り合わせて、それから歯列を確かめるように彼の舌が僕の咥内を蹂躙する。
「ん・・・フッ・・・・んん・・・。」
どちらのものか分からない、吐息。求められてるんだと思うと、嬉しいのか切ないのか分からない気持ちになる。僕は緩んで来た彼の左手から逃れでた右手で、彼の髪をまさぐる。
やがて、彼の唇が僕の項に落とされる。このまま、ここで?とチラリと思って、どうでもいいかと思い直す。・・・なのに。
「あの、ここじゃ、痛いですよね?っていうか、確認ですが。今日はこの後、セイランさんは時間がありますか?」
眉はこれ以上ないくらいに寄っているし、瞳は情欲に濡れている。今更何を言ってるんだ、この人は。しかも僕が仕掛けたのに?と思った時には、既に吹き出していた。
「わ、笑わないで下さいよ。大事な事でしょう?」
む、としたような彼の声に、
「あ、すみません。あんまり可笑しくて。」
僕は皮肉すら忘れて返してしまう。きっと、どんなに切羽詰まってても、今日はそんな気分じゃないと言えば、彼は一生懸命自分を戒めて、きっと行為に及ばずに行儀良く帰るのだろう。それはもう必死に。それで僕はまたなんとなく切ない気分になる。それは、僕が大事にされてるって事じゃない。彼は自分が想いを寄せるものに、いつも、そういう大切な扱いをできるに違いないから。
「ランディ様の、お好きな様に。」
僕は余裕ぶって、髪を掻きあげ、笑う。それくらいの意地悪は許して欲しい。だって、僕は貴方の未来を独占できない。だのに、彼は僕のその発言を皮肉とも思わなかったのか。
「良かった。」
と言って、僕の手をまるで女の子の手を取るみたいにして、取り上げて立ち上がらせる。
「じゃあ、ベッドに行きましょう。」
僕は促されるまま、彼の後を手を繋いだままついていって、僕の寝室の「寝られればいいので」と用意してもらった簡素なベッドにたどり着く。繋いでいた手がとても暖かかったので、ベッドに倒れる時に、その手が離れてしまって、僕は少し寒いと思う。それを分かってるみたいに、彼はギュゥと服ごと僕を抱きしめてから、僕の服をゆっくりと脱がす。僕も、彼の手の動きと速度を合わせながら、彼の下履きを脱がす。少しくらい、偽悪的な雰囲気を残しておきたいのに、それすら許されなくて、まるでそれは神聖な儀式のようになってしまう。生まれたままの姿になってしまうと、僕の貧弱な身体をジッと眺める彼の空色が耐えられない。
『そんなに見ないで。』
と言いたいのに、僕はただ、喉でそれを潰した。もう一度、ギュッと彼が僕を抱きしめる。僕はホッとしてそれに応じながら、すっかり兆している彼自身の存在に、ちょっと吃驚する。
それを冗談みたいに口にしようとして、彼の真剣すぎる瞳に捕まって、口を開けかかったまま固まる。空色の瞳が僕を瞳をまっすぐに捉える。彼の堅い掌が、僕の額と肩を固定するように少し痛いくらいの力で掴んで、項を強く吸われる。まるで吸血するみたいに。僕は、彼のこういう、ちょっと動物地味たセックスが好きだ。
「ハッ・・・ぁ・・・。」
強く吸われて、きっと跡になっているのだろうなとぼんやり思いながら、彼がやっと唇を上げて、舌先で、さっきまで吸っていた箇所をなぞるのに、身震いする。今度は胸の頂き。焦らすようなテクニックなんて、必要ない。僕はもっとと強請るように彼の頭を両手で引きつける。
僕が感じる所を既に知っている彼は、体中の僕が好きな場所をアチコチ、順序なんて気にすることもなく、吸っては跡を付けていく。ジンジンと身体が痺れて、僕は脳に霞が掛かったみたいな感覚に酔う。彼の胸が近づいたり、手が近づいたりする度に、僕は仕返しとばかりに、そこに小さく噛み付いて応える。時折、くすぐったそうに笑う彼が、なんだか小憎らしくなって、ちょっとキツく彼の二の腕に噛み付くと、
「んっ!もっと、噛んでいいですよ。俺は、セイランさんのものだから。」
等と瞳を見つめて言われてしまい、僕は赤面して内心で盛大に狼狽える。
「ずるいよ。」
僕は手の甲を目に当てながら、呻くのがせいぜいだ。
「何がズルいかは分かんないですけど、ごめんなさい。」
等と言い加えて、彼は僕の両足を広げる。もうズキズキするくらい、僕の中が彼を求めてる。それでも彼はよくよく指を唾液で濡らしてから、まずは一本目を入り口に当てる。ひくん、とそれだけで身体中がざわめいて、入り口が強請るように反応する。
「入れますね。」
なんでいつも確認するんだ、と僕は内心で苛立ちながら、コクコクと顎を引いて応える。ツプ、と中に入ってくる指。早く、早く、と僕の中が急き立てるように反応するのが自分で分かる。
「あ!はや、クッ・・・・。」
追いすがるように、僕は彼の二の腕にギュゥと爪を立てる。眉根を寄せて、なんだか怒ってるみたいな顔で、
「そんなに急かさないで。我慢するの結構厳しいんですよ。」
なんて言う。じゃあもっと、滅茶苦茶にしてよ。労らないで。お願いだから。僕はただ、彼が内部を弄るのを、爪を必死に立てて耐える。ぐり、と一番良い所を指先で押し込まれると、堪らなかった。
「ああッッンッ!!あ、モット、早、クッ!!あ、アゥ、アッ・・・!」
僕の要求に今度は応えるみたいに、ぐい、ぐい、とそこを何度も指先がダイレクトに擦ってくれる。身体がジタバタするのを止められない。強い刺激から逃げるみたいに、だけど、もっと強く擦り付けるみたいに、腰を振る。
刺激に我を失ってるうちに、指の本数が増やされていたのか、ずるりとソレが引き抜かれると、身体から何かが刮げとられるような感覚になる。けど、指が引き抜かれてすぐに、今度は彼自身の熱い塊が僕の中に、グッと深く一気に押し入って来て、
「はぁッ・・・クッ!」
吸ってるのか吐いてるのかすら分からなくなって、口がパクパクと空気を食む。急に中奥まで入り込まれた衝撃に身体が馴染むのを僅かに身を震わせながら待つ彼は、やっぱり何だか怒ってるみたいな顔。笑ってやりたいのにこっちはこっちで余裕が無い。彼の両手が僕の首の横に付かれて、身体の逃げ場を無くしてから、なのに彼は、
「ごめん、なさい。痛かったら、言って!!」
優しげな事を言いながら、腰を大きく振りたくる。パン、パン、パン、と強い衝撃に僕は目の前がチカチカするような鋭い快楽を断続的に味わって、身体が壊れるのじゃないかと言う恐怖に襲われる。なのに、口からは唾液に塗れて、
「モッ・・・トッ!!あっアッアッ!!あ、モッ、と!!・・・!」
阿呆のようにただ彼を求める言葉しか出てこない。もっと、もっと、もっと、と思う内に、彼はややアクロバティックに僕の腰を抱え上げ、半分立ち上がるみたいにして、ガガガと荒っぽく腰を使う。僕はシーツを両手でギュゥと掴んで、身体が右へ左へとズレてしまいそうになるのを、なんとか繋ぎとめて、けれど、その感覚すら、やがてどこかへ吹っ飛んで行く。
「セイランさん!セイランさん!」
と、彼が僕の名を切羽詰まったような声で呼びながら、僕の中で熱い飛沫を上げる感覚を最後に、僕はとうとう辛うじてこびり付いてる意識を手放した。

―――もう、目を覚まさなくて良い。

なのに、僕は濡れたタオルで身体を拭かれている感覚で、目を覚ました。
「あ!」
僕が目を開けたのに気づいたのか、彼は間抜けな声を上げてから、ギュゥと僕を抱きしめた。まだお互いに裸のままだった。抱きしめる力がちょっと強すぎて、苦しいけど、僕には反応する気力も残されてない。それがジワリと弱まって、
「良かったぁ・・・。」
と、あの爽やかな笑顔。僕も思わず釣られて笑顔になってしまう。眩しい。
「さす、がに・・・。」
喉が嗄れてしまっていて、僕はそこまで言ってから、咳き込んだ。年寄りを慰めるみたいに、彼が僕の上半身を起こして、背中を摩る。参ったな、そんなに年じゃないつもりなんだけど。
「流石に。守護聖様、と。セックス、中に、教官が、死亡、なんて・・・。シャレに、なりませんね。」
なんとかかんとか口にして、僕は笑って僕を横から抱き込むようにする彼に笑いかける。彼は紅くなってちょっとだけ俯いてから、キッと顔を上げて、
「僕はセイランさんを殺したりしません。」
きっぱりと真剣に言った。冗談ですよ、と言いたいのに、なんでか僕は胸が詰まってうまく言葉を返せない。ただ、なんとかノロノロと右手をあげて、彼の癖っ毛を撫でた。その手を彼が左手で捉えて、ごく自然に、唇に当てる。
この人は、年を重ねたら、オスカー様みたいになっちゃうんじゃないのかなーとなんとなく不安になって、まあでも性根が違うかと僕はせんない妄想を掻き消す。
「ずっと、一緒に居ましょうね。」
彼は幸せそうな顔で僕を見下ろす。不意打ちすぎて、僕は、涙を堪えるのに、失敗した。ぽろりと勝手に右目から一粒の涙が溢れる。
「え!」
と吃驚したように彼が慌てて、僕の目尻に指先をそっと当てる。
「僕、は。教官です。」
まるで舌が言う事を利かずに、片言のような無様な台詞。
「はい。」
まっすぐな返答。それから、にっこりと笑って、
「でも、なんとかなりますよ。」
自信に満ちた笑顔が眩しくて、僕はそれを追いやるように目を瞑る。それで、ツゥ、と両目から涙がまた零れ落ちてしまった。彼に触れられている全ての部分が、とても暖かくて、本当になんとかなるんじゃないかと僕は錯覚する。錯覚なのは、よく分かっているから、だから、余計に辛くなる。
「なんで分かるんですか。」
僕はもう一度目を開いて、彼の空色を見つめる。重厚なカーテンを締め切っているせいで、部屋の照明しかないっていうのに、何故かこの部屋には青空が広がっているんだと僕は訳の分からない事を思った。
「うーん。なんでかと言うと、よく分からないんですけど。でも、大丈夫ですよ。俺の、母さんと父さんも、きっと駄目だって言われるような関係だったけど、ちゃんと上手くいったし、なんか、そういうのって、分かるんです。」
青空に、爽快な風が吹き抜けて、雲がザァと素早く駆けて行くような、幻影。

―――本当に、神様みたいだ。

そう、そして神と人間は、共には居られない。
僕は笑った。
「そうですか。じゃあ、ずっと一緒に居ましょう。」
棒読みで返すのは、空虚な約束。僕の予想に反して、彼はしょげてしまったように、眉を下げて、それから、もう一度、笑顔を取り戻して、きっぱりと言う。
「今は、信じてもらえないかもしれないけど。でも、俺、セイランさんに、信じてもらえる時が来るまで、待ちますよ。」
僕は、
「そう、ですか。」
と、返すのがやっとで、それ以上何も言えず。
泥の様に重い身体の感覚に任せて、目を閉じた。

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僕が聖地を去る日。それでも彼は、「俺、守護聖の任が終わったら、すぐに会いに行きますから。」とめげる気配もなく、僕に約束した。
僕は何度もシミュレーションしていたので、ゆっくりと息を吐き出してから、
「その頃には僕はジイサンですよ。」
と返した。彼は尚も気落ちせず、
「セイランさんなら、どんな姿でも、俺好きだから。大丈夫ですよ。」
と請け合った。僕は、
「残念ながら、僕はそんなに待てないですね。」
とシニカルに返して、ニヒルに笑ってやってから、故郷に戻ってから、泣いた。

僕は彼を待つ訳もなく、けれども、彼を忘れられもせず。それで随分、自暴自棄になって年月を重ねた。

・・・なのに。

「ね?また会えたでしょう?」
思いがけず、彼の約束とは全く違った形で、僕は彼と再会する羽目になった。僕は、僕ばかり年を取った理不尽を嘆いたり、予想できていた彼の得意気な顔を揶揄ったりする予定だったのに、そこに広がった変わらぬ青空に、一瞬、呆然としてしまった。
代わりに、とてつもなく愚かな感想が、胸を過る。

―――そうだった。
―――僕は、神様と約束したんだった。

なんていう、愚かな感想が。

終。

寂寞<じゃく・まく>

心が満たされずにもの寂しいさま。せきばく。
デジタル大辞泉

エリカ

ツツジ科の植物の属のひとつ。700種類以上の種があり、その大部分は南アフリカ原産で、残りの70種程度がアフリカの他の地域や地中海地方、ヨーロッパ原産である。
多くの種は高さ20-150cmほどの低木であるが、E. arborea、E. scopariaのように高さ6-7mに達する種もある。エリカの群生地としては、北ドイツの自然保護地区、リューネブルガーハイデが有名。英語ではヒース(heath)と呼ばれる。
wikipediaより抜粋

ドビュッシーのピアノ曲に「ヒースの茂れる荒地」がある。
花言葉は「裏切り」。


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