常春のように暖かい聖地のある日、ゼフェルは快適な寝場所を探してクラヴィスの裏庭に潜り込んでいた。
原生林にも似た裏庭は広く、寛げる場所はいくらもあったが…ふと緑の中に赤い花影を見たゼフェルは、1本の木に近寄ってみた。
細く低いその木には、見た事もないような鮮やかな赤い花が1輪揺れていた。…辺りは広く暖かく、木漏れ日もチラチラ溢れて気持ちよく昼寝出来た。
次からはこの花を目印にすればいいか、と久しぶりに機嫌よくゼフェルは私邸に戻って行った。
1面緑の中にぽつんと咲く赤い花が気に入ったゼフェルは、しばらくそこに通いつめた。
ゆったり流れる聖地の時の中、花はゆっくり萎んでいき…ほの赤く丸い実をつけた。
その頃にはもう目印がなくてもそこに行けるようになっていたゼフェルだが、なんとなく丸い実の成長を見守るように通い続けていた。
大きく育った丸い実の赤が濃く艶やかになり、重そうに枝に揺れるようになった頃…気まぐれに裏庭に来たクラヴィスとゼフェルが鉢合わせした。
さすがのクラヴィスも、こんな場所に人がいるとは思わなかったのだろう…驚いたように目を見張ると、そばにあった赤い実に視線を移して微笑んだ。
「お前は、この実が気に入ったか?」
やわらかく問いかけるクラヴィスに、ゼフェルは少し照れくさそうに花の頃から通っていた事を話した。
「この実は熟すと食べられるが、まだ少し早いようだ……実が割れたら私を呼ぶと良い。」
馳走しよう…とクスリ微笑んで去っていくクラヴィスの背中を、ゼフェルは珍しいモノを見たように見送った。
クラヴィスの裏庭でゼフェルがザクロの実を食べるのは、もう少し先の話……
End.
End.