以下、ノマキの妄想短文です。 え?・・・お、落ちませっっ・・・。 -- 「なに、これ・・・。」 私邸の中、浴場に向かって歩いていると、妙な形のランプが床に転がっている。 怪しすぎる。廊下に異物が落ちているのに、家の者が気づかないだなんて、ありえない。 ゼフェルのいたずら?と訝しみつつも、そぅっと、しゃがみこんで、観察する。 繊細で美しいアラベスク文様の細工が施された金色のランプ。だけど、妙に古びたそれは、年代物っぽくはあったが、埃を被って少々汚らしい。 シルクのハンカチを取り出し、ハンカチを使って、慎重にそれを取り上げる。 立ち上がって、目の高さまで上げると。 ボワワワワーーーーーーーーン お約束の効果音と共に、白い煙幕が立ちこめる。げほっげほっと噎せ込んでる内に。 「よぅ、オリヴィエ。なんか用か?」 ・・・。 「どうした?」 「なっ・・・!?」 見慣れた男の、あまりの格好に、思わず声が裏返ってしまった。上半身裸だし!ていうか、色々なラインが丸見えだっつーの!って、上半身裸なんだから当たり前だっつーの!!赤と白のその格好は、男の頭髪の色のせいもあろうが、やたらと似合っている。先のとんがった赤い靴までトータルコーディネートされちゃってまぁ、ははは・・・。 こんなことでイチイチ驚いてたら、心臓がいくつあっても足りないわよ、と無理矢理自分を納得させ、生唾をなんとか飲み下して、自分を取り戻す。 「あ、アンタ一体何やってンの。」 だがやはり、冷静を装った声は、アタシにあるまじき、低く縒れたものになる。あーもー、この男にかかずりあってると、アタシの美声も形無し。 「何って、バイトだが。」 男の尊大な態度に、お前はアホか?と聞かれている気分になる。しかしながら、アホはアンタだとアタシは言いたい訳で。どこの守護聖がバイトでコスプレしなきゃいけない訳。 「あっそ、バイトね。はいはい、お疲れ。」 馬鹿馬鹿しい。少しでも真剣に取り合おうとしたアタシがおかしかったのだ。こんなもの、ただの白昼夢に、決・ま・っ・て・る。ランプだけ、人差し指にぶら下げて通り過ぎようとしたアタシに、男はありえないスピードでアタシの進行方向に回り込んで言った。 「で?なんか欲しい物とかないのか?ほら、アレだ。丸屋根の豪邸が欲しいとか。誰でも美しく見える魔法の鏡が欲しいとか。」 正直者の鏡で十分アタシは美しいっちゅーの。全く、何に影響されているのか知らないが、珍しく大袈裟な手振り身振りで男は次々に提案してくる。心なしか、山○氏の声がダブって聞こえた。やたらと凝った白昼夢だ。 「欲しい物?そうねぇ・・・。」 顎に人差し指を折り曲げて当て、ウーン、と考え込むアタシに、オスカーは腕組みしたまま、腰を少し折って顔を近づけてくる。近いっつの。あーもー、鬱陶しい。 考えた末、アタシはきっぱりと言ってやった。 「アンタ。」 ビシ、といつもの如く、人差し指で鼻先を指し示す。至近距離から見上げつつ、勿論片腕は腰に当てて。 「・・・。」 「・・・。」 アタシ達は互いに固まったままに、沈黙を重ねる。 おかしいわね、そろそろ白昼夢は覚めても良い頃だけど。 「ってアンタ、何やってンの?」 やっと動き出したオスカーは、どこから取りだしたのか、大ぶりのクッションを、勝手に廊下に敷き始める。寝て休めるほどの大きさにすると、少しだけ頭側を高くし、これまたどっから取り出したのか、純白のカバーでそれをすっぽりと覆う。 オスカーは、ふむふむ、とそれを上から押さえて具合を確かめると、そこに背からどさっと寝そべった。 ・・・ちょっとちょっと、なんでそんなにノリノリなのよ。一体どんな報酬もらッてンの。 「で?俺が誘えばいいのか?」 男に対しては「目つきが悪いのは生まれつきだ」とかなんとか、皮肉な視線かガン飛ばしてるかのどっちかしかない、その薄い色の瞳が、今は三日月に細められて、アタシを誘っている。緋色の前髪を、右手で軽く押さえている為か、腰から胸、胸から肘へと身体のラインが・・・なんか・・・。なんか・・・。 「ん?」 あぁ、もぅ、この男だけはっっ!! 終。 |