拍手お礼SS第一弾 【最恐戦士カイトシリーズ・その1】



以下は、2000hit後〜6000hitまでの間、拍手お礼画面に掲載していたSS&お礼文です。現在掲載中のお礼文ともシリーズ続きになっておりますので、未読だった方用にアップしております。
※注※本編にも増して意味不明+趣味に走ってます。orz・・・ごめんなさっっ!



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拍手有り難うございます!
毎日(ひどいときは一日数回ーー;)拍手画面を覗いては、「あう、今日はなかったなあ・・・」とか「今日は拍手きてたー!」とか、一喜一憂を繰り返しております。<年甲斐もない・・・。
もっと落ち着いて取り組むべきだとは思うのですが・・・、どうも性格的に難しいようで・・・。爆。
以下、(相変わらず)下らないですが、いつもの(やる気ない人約一名含む)二人+拍手お礼SSです。
10回連続拍手で、最後まで読むことができます。(その後はループです。)

カイト(以下、K)「こんな辺境サイトまで来て、挙げ句拍手まで送ってくれるだなんて、物好きもいるもん・・・げほっ!!(うずくまる)」
レン(以下、L)「(鋭くカイトに突き刺したエルボーを何気ない笑顔で背中に隠しつつ)ご来店有り難うございます!お陰様であれよあれよという間に2000hit越え!カイトも俺も幸甚です!・・・な?(目を細めてカイトを横目で見上げる)」
ノマ「(・・・早くアップしないと3000hit超えるってんで、あわててアップしているので、多分これを読むヒトは3000超えている状態で読まれているかもデス・・・^^;げふげふん!)」
K「相変わらず乱暴だな・・・、ったく・・・。(立ち直って頬の辺りをぽりぽりしている)」
L「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・し・た!!リピータフタミー!!プリーズ!?」
K「有り難うございました!!またのご来店をお待ちしております!!」
L「うむ、宜しい。(腕を組んで頷いている)」
K「・・・・(チビっ子のくせに・・・)。」
L「なんか言ったか?!」
K「いいえぇ、何にも?(舌を出して肩を竦める)」
L「と、言うわけで、相変わらずの拙さではありますが、次ページから拍手用SSになります。コメントなしでも、連打できますので、「読んでやってもイイよ☆」という方、下の「もっと送る」ボタンで続きをどうぞー♪」
K「(腰をかがめてレンに耳打ち)え?僕なんにも聞いてないけど?この先何かあるの?」
L「(ひそひそ)んー。なんか知らんけど、『連載組むほど膨らまないけど、ちょっとだけやってみたいネタ』みたいなのがノマキ妄想に降臨したらしくてな、そのネタだって。」
K「(こそ)は?何ソレ?」
L「(ひそ)だからっ俺だってしらねぇってば。とりあえず連載シリーズより現代に近い設定で、カイトが肉体労働者で、俺は・・・えぇっと(設定メモを見ている)何コレ。アイドルって書いてあるけど・・・アイドルって待機って意味のアレ?」
K「(こそ)馬鹿だなあ、レン。アイドルって言ったら、公共電波に乗って歌って踊るアレだよ、アレ!!ってちょっと待てよ、なんでそんなに待遇違うわけ?」
L「日頃の行いの差だろ。」
K「はぁ?君よりよっぽど品行方正なんですけど。」
L「?あ、あれ?まだページ送ってませんでした?すんません。こっちの内輪話なんで、どうぞ、次ページにお願いしますー。カイトはちょっとこっち。(襟首を掴んで無理矢理引きずって行こうとする)」
K「チビのくせに怪力だなあ・・・(特に抵抗せずに引きずられている)あ、なんか下らないっぽいですけど、楽しんでいただければ幸いです〜。(引きずられながら小さく手を挙げている)あ。ノマキが書くんですから、当然BLだけど、エロありませんよ。すみませんねぇ。」
ノマ「(ジジイすぎだから・・・。ていうか、当然って・・・。)」


第一話:最恐の矛と盾 / 第八話


「ねぇ、彼女。お茶しない?」
些か古くさすぎた誘い文句だったかな、とは思いつつ。俺は最近某雑誌で「耳元で囁かれたい声No.1」にランクインした声を駆使して、遊び相手候補の肩を指先で軽く叩き、誘いをかける。
「え・・・私?・・・で、でも・・・。」
昼の繁華街から多少浮いて見える、擦れてない黒い大きな目が、俺と同じ高さで戸惑ったように少し揺らぐ。
―やったね、脈有り。
「いいじゃん、いこ!」
俺はやや強引にその子の手を掴み、くるりと踵を返そうと・・・した。・・・のだが。
「動くな。」
唐突に・・・脇腹に、固い金属の感触。初めての経験ではないが、やはりゾクと、服の下で肌が泡立つ。
「鏡音レンだな。一緒に来てもらう。」
低い、男の声。視線をそちらにやらないように気をつけながら、俺は遊び相手になりかかった彼女のぷっくりした手を名残惜しく思いながら、離す。そしてゆっくりと両手を挙げた。
「サングラスに帽子。完全な変装だと思ったんだけどな?」
どうしても、言わずにはおれず、軽口を叩く。
くそ、帰ったら大目玉だ。いや、帰れたら・・・かな?
「甘いな、お坊ちゃん。おしゃべりはいい。ゆっくりと両手を下げて、尻の後ろで組め。拳は駄目だ。手のひらが俺から見えるように。そのまま、右手前に見えている路地に入ってもらう。・・・動け。」
低く抑揚のない早口。抑揚がないのは、訛りを消すためだろうか、どうやらプロっぽい。・・・抵抗・・・しない方が良いのかなあ。護身用のブザーはパンツの右ポケット。命は取られないとしても、今ポケットに手を突っ込んだら、確実に手荒にされるよな。
はっ、と殊更短くため息を吐いて。
観念して、斜め後ろから脇腹に当てられている銃口を意識しながら、ゆっくりと手を下ろして、後ろで組み、言われた方向に歩みを進める。
路地を曲がったら、おそらく何人かが待ち伏せしていて・・・『ピンチの時は、常に最悪の事態を想定して行動しろ』と、ほとんど睨むようにして低く言いつけられた時の事を思い出したのか、勝手に嫌な想像が俺の脳裏で展開する。その後は・・・多分、ドスッと鳩尾に一発。両手両足拘束されて、どっかに拉致監禁〜ってか。トホホ、と想像はほとんど泣き言に近い内容になる。ああ、もう駄目だ路地まで着いちまう・・・と思ったその時。

ドカッ!!
ドスッッバキィッッ!!

・・・どさっ。

背後でやたらリズムよく、物騒な物音がして、脇腹の銃口の感触が止む。
俺は両手を後ろで組んだまま、ゆっくりと振り返った。
繁華街の喧噪の中、その喧噪に紛れるに適した黒いロングコート。目立たない、小さな黒いインカムを付けた・・・だが、目立ちすぎる青い頭髪、高い背、青い瞳、白い顔の・・・カイトが、俺を上から見下ろしていた。
やけに、無表情に。

「メイコ!!残りの連中は第三、第四区画の路地から北へ向かって逃走。追って!!」
『もう追ってるっ!』

小さく、低い声でインカムに向かって指示を飛ばしたカイトに、メイコさんの短い返事がカイトの胸に付けられた無線から響いた。俺はそのやりとりを聞きながら、自分の足下に転がっているスーツ姿の男を見下ろした。可哀想に・・・苦しそうに丸まった男には、息がある。これからアンタ、拷問されるぞ。
しっかし、きっちり撒いたと思ったのに、くっついてきてたんだな。まあ、お陰で助かったけど。とかなんとか、ぼんやり思った辺りで。俺は突然、地面に吹っ飛んだ。

「誰にどれだけ迷惑かけるかくらい、考えろっ!」

アスファルトに叩きつけられた俺の上から、怒号が降る。突然すぎてよく分からなかったが、鳩尾をけっ飛ばされたらしい。じんわり、痛みと熱が内側から湧き上がってくる。顔は商売道具だから・・・傷つけないでくれたんですかね。・・・にしては、地面に倒されたときに、後頭部を強かぶつけてるんですけど・・・。あ、これはもしかして、顔とは関係ないとかそういう?
カイトは長身をかがめると、俺の襟首を掴み上げ、高く上に持ちあげる。いやあの・・・今度は息が苦しいんですけど。

「『もうしません、すみませんでした。僕が馬鹿でした』」

カイトの冷徹な声。・・・『と言え。』が、抜けてるけど?とは思いつつ。言わなきゃ下ろしてもらえねぇ。サングラスは吹っ飛んでるし、こんな公衆の面前でみんなのアイドル鏡音レン君が、赤子か、ぼろ雑巾か何かのように吊り上げられているのは・・・あまり宜しくないっつーか俺は個人的にご勘弁願いたい。

「・・す・・・んません。も、しません。」

腹痛と息苦しさに耐えつつ、ふてくされ気味に言うと、ゆっくりと地面に下ろされて、頭や衣服の乱れを、カイトがしゃがみ込んで、適当に直してくれる。普段鬼のようなのに、なんだかこういう時の手つきが優しいので、勘違いしそうになる。別にコイツは俺に優しくしてるんじゃない。マスターの「商品」を「整えている」だけだというのに。・・・分かっては、いるのに。

「ここじゃ目立ちすぎるな。事務所に戻る。」
言い聞かせるように、俺の目を覗き込む、深い藍色の瞳。
アンタの腕は、俺を守る矛。
アンタの身体は、俺を守る盾。

くそっ、気にくわねぇっ!

「何を睨んでる?睨みたいのはこっちだ。」
一度訝しげに眉を上げてから、呆れたように、フン、と鼻から息を吐いて。カイトは暴漢と思わしき男を、軽々と肩に担ぎ上げて、すぃっと立ち上がり、インカムに声をかける。
「メイコ。今どこだ。」
『駄目よ、取り逃がした。そっちに合流する。』
「了解。」

短く淡泊なやりとり。互いの呼吸が分かっているから可能なソレは、なんだか妬ましい。
・・・妬ましい?なんでだよ、と自分でつっこんで。

『ところで、お説教は終わったのー?』
悪戯っぽい調子に声色を変えて、メイコさんが無線越しに訪ねる。
「まだだ。」
!?
「まだ?今終わったんじゃないのかよ!」
思わず反射的に声を荒げて俺はカイトを見上げる・・・・が。ジロリ、と射るような視線に、うっ・・・と思わず悲鳴の続きは詰まってしまう。身長差がいけない。これがなければ、こんなに俺がコイツを怖いと思うはずは、ないんだが。
見上げているうちに、ぼーっとしちまってたらしい。
「随分と物欲しそうな顔をしてるな。欲求不満か?」
フフ、と器用に空いた左肩だけを竦めて、カイトは笑った。

―ああ、欲求不満さ。アンタのせいだろ。
等と、答えられるはずもない。
「馬鹿言ってら。」
俺は一度肩を竦めてから、路上でもの言いたそうにこちらを見ているサングラスを拾い上げて。最早それが役に立たないことを確認して、ハーフパンツのポケットにそれをつっこんだ。


終。
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第二話:半身と半心 / 第八話


「で?僕とメイコを撒いて何するつもりだった?」
会議机の上に座って、カイトは片足をデスクの上に上げてその膝を抱え込み、俺の瞳を覗き込む。行儀が悪いこと、この上ないが、目と鼻がくっつくような距離で覗き込まれると、誘われているんだろうか、コレ・・・とか思わないでもない。向かい合うようにして、安物のパイプ椅子に座らされた俺は、その青い目が据わっていなければ、「やってられねーな」とでも言い捨てて、どこかに退散するところなのだが。
しかも、カイトの後ろで仁王立ちしているメイコさんは、言っちゃあアレだが、もっと恐い。
「何って・・・見てたんだろ?ナンパだよ、ナンパ。」
恐いんだが・・・それを素直に口に出すことはできない。なんでだろう。こういうとき、俺の半身が若干羨ましい。
「ナンパ、ねぇ・・・。」
眇められた目は、睫が影を作って、なんというか・・・。

バンッッ!

と、俺の背後で勢いよく扉が開く音がして、キャハハッと甲高い笑い声。
「レン、脱走しようとしたってマジ?!」
来たよ、俺の半身。お前は大抵愛らしすぎるか憎らしすぎるかのどちらかだ。んでもって、今は憎い方な。
しかも脱走だって?・・・ヒトをハムスターか何かと勘違いしてるんじゃねぇか?
「うっせぇよ。」
天井を仰ぎながら言えば、俺がそうすると分かっていたかのように、上から覗き込む、俺と同じ色の瞳。俺と同じ色の髪。
「ご挨拶をドーモ?」
嫌味っぽく目を伏せられ。ほらみろ、やっぱ憎らしい方じゃねぇか、とため息が出る。
「油売りに来た訳じゃないんだよねー、アタシ。マスターが呼んでるよん♪カイトさん、メイコさん。オタノシミのトコ、悪いんですが、レン借ります☆」
ニコッと弾けるように笑った顔は俺に向けられたものではないが、愛らしい方に違いない。
カイトに視線を戻せば、カイトはどーぞ?とばかりに手のひらを上に向けてゆっくりと出入り口の方向へ思わせぶりに振り、俺を促す。
「ほらっ、行くよ!」
とやや強引に、腕を取られ、俺はパイプ椅子をガタガタさせながら、立ち上がる。
「おい、ちょっと待てって。自分で歩く。」
俺は、立ち上がって、出入り口に向き直り。リンの腕をゆっくりと自分から引きはがし、服を整える。少しだけ振り返ると、にっこりと笑いかけながら、シッシッと手を振る、カイトが視界の隅に映った。俺は蠅かよ・・・と自分のこめかみにピキッと青筋が立つのを感じつつ、ムキになるのも面倒で、振り返っちまった自分を呪った。
腰に手を当てたリンが、「早くしてよね。」と瞳で急かすのに、「分かってる」と瞳で答えて横をすり抜ける。

足早に部屋を出る俺を、トコトコと斜め後ろから追いかけながら「あの人はもう、ボーカロイドじゃないんだよ。レン。」と俺にしか聞こえない小さな声で。リンが独り言のように、寂しげに呟いた。

・・・なんで、分かっちまうんだろう。リンには。

歩みをとめて、だが振り返らずに、
「分かってるさ。」
と短く淡泊に言えば、
「見なきゃ良かったのよ、アンナモン。」
と、さっきの呟きが嘘のような、吐き捨てるような声が俺の後ろ頭に突き刺さる。
俺が参ってると、巻き添え食ってブルーになっちまうお前はいい迷惑だよな。だから、怒る気持ちも分からんでもない。
「ほんとだな。」
髪を掻き上げて言った台詞には、苦笑が交じる。
「馬鹿。アタシも後悔してんだってば。」
思いがけない返事に反射的に振り返ると、リンが俺の傍らで悔しそうに親指の爪を噛み締めていた。その顔に、ハハ、なんだ。お前もか。と思わず鼻頭に皺が寄った。
「あのね。言っとくけど、レンが『観てやろーぜ』とか言ったのが最初だからね!」
人をビシッと指さして、ジト目をかますのは、やめとけ。せっかくの可愛らしさが台無しだぜ?
「バーカ、嫌なら『一人で観れば?』って、どっか行きゃよかったんだよ。」
ふふん、と鼻で笑い飛ばしてから、俺はマネージャ室に向かって早歩きを再開した。


終。


第三話:狂犬と強権 / 第八話


「スミマセンデシタ。モウシマセン。」
ほとんど棒読みだが、俺は開口一番で言った。
「お前が何度脱走しても、カイトはお前のボディーガードだ。外さんぞ。」
豪勢などでかい木製のデスクに肘をつき、顔の前で両手を組んだマスターは、微動だにせず、淡々と言い放った。
俺は反射的に隣の半身に視線をチラリと送る。リンはおそらくほとんど無意識に、その視線をどこか明後日の方向に受け流した。

・・・バラしやがったな。

俺は軽くため息をついて、ガシガシと頭を乱暴に掻き毟る。
「別に。リンが何を言ったか知りませんが。俺は、カイトが気に食わないだけです。」
唇を尖らせ気味にして、俺はマスターを正面から見据えた。
「随分挑戦的な物言いだな?まあ、いいさ。お前とリンは『そのように造られている』んだからな。だが、カイトは違う。この意味が分かるか?」
挑戦的なのはアンタでしょーが、と思うのは・・・やはり俺が「そのように造られている」からなんですか?と、聞いてやろうか・・・。思ってから、俺は自分の思いついたあまりにも小さな反抗に自分で辟易する。
こんな時は何か。脳裏をチリチリとした嫌な感触が、這いずっている。
「カイトは、望んでボーカロイドを降りたんだ。レン。」

『望んで』・・・それも、そう造られた、というやつですか。『望んで』歌を歌い、次世代マシンが出来たら『望んで』歌うのをやめ、マイクを武器に持ち替え『たくなった』って?

カイトより少し長めの黒い前髪を、長く骨張った指先でツイ、と避けてから、手を組み直し、俺をじっと睨んだマスターは。口元は又しても組まれた手で見えなかったので、これはあくまで予想なのだが・・・片方の口の端を使って不敵に笑った・・・と思う。
「話が噛み合っていませんね、マスター?俺は、カイトが気に食わないだけだ、と言ってるんです。」
早口に、少し声の調子を高くして言う。視界の隅で、やりすぎだよ、レン・・・とため息をついて、リンが額に軽く指先を当てる。
「では、カイトはもう廃棄かな?お前達のボディーガードの他に使い道を思いつかないし、もうそれ以外には「使えない」しな?」
くすっ、と鼻で笑って、マスターは組んでいた手をほどき、右の掌を、ひらりと天井に向けてみせた。

何を考えたのか、自分でも分からない。

ダンッッ

自分が強く右足を踏み込む音と同時に、かっと頭が突然熱くなって、反射的に俺はデスクの上のマスターの胸倉につかみかかろうと・・・
「『レン、動くな。』」
マスターの低い声が響き、俺の身体が不自然に突然、フリーズする。右手の小指につけた太い銀のリングをマスターはこちらに翳してみせた。

―所有者の、印。

つかみ掛かってやろうと繰り出した左手は、デスクの上で、中途半端に固まったまま、動かない。俺の意志に反して、身体には全く力が入らなくなった。
「レン、止めよう。」
リンが、哀れむような調子で背後から声をかけ、俺の肩を抱いた。
「『レン、自由にしろ』」
マスターが目を細めて、えらく楽しそうに言った。
コマンドされると同時に身体の自由が戻り、再びつかみ掛かかってやろうか・・・と一瞬、しょうもないことを考える。リンが労るような視線で俺の横顔を覗き込むのを見て、俺は拳を一度ぎゅ、と握りしめた。
それでも、収まりきらず、ギリッ、とマスターを力の限り睨んだまま、俺は言い放ってやる。
「『人間様』なんて、ホント、禄なモンじゃねぇな。皆いっそ滅びちまえばいいんだ。」
けっ、と吐き捨てて踵を返したところで、
「まるで狂犬のような眼だ。・・・お前は俺のお気に入りだよ、可愛いレン。」
クッククククッと、堪え切れなかったのか、背後で喉を鳴らして楽しげにマスターは嫌みを投げ付ける。
・・・だから、ロクなモンじゃねぇっつってんだよ。と俺は胸でごちて、「リン、行くぞ!そろそろリハしねぇとっ!」と半ばやけくそになって、リンを振り返らずに声をかけ、バンッッと乱暴に扉を開いた。


終。
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第四話:嫉妬のロンド / 第八話


「聞いたか?カイト。アレが第二世代の実力だ。」
呼ばれて、僕はマネージャルームの給湯スペースからデスク脇にひょいと出る。
「・・・別に、羨ましいとも思いませんが。」
盗み聞きをするつもりはなかったのだが、マスターに無線で「部屋に裏口から入るように」とコマンドを受けて、部屋にきたら、この状態だった。さっきの口ぶりから、マスターは僕に彼のあの様子を聞かせたくて、入室させたようだが。
第二世代の二人は・・・僕ら旧型から見れば、「えらく苦しそう」としか言いようがない。
哀れみこそすれ、羨望などは全くない。
「少し、可愛そうな気もします。彼は、貴方に溺愛されすぎていて。」
出過ぎたかな、とは思いつつ、言うだけ言ってみる。不快感を示されたら、次からは止めておこう、と思ったが。
「なんだ、カイト。嫉妬か?」
ん?と寧ろ嬉しそうに、悪戯っぽく見上げられ、
「嫉妬?僕が彼に?何故です?」
意味を掴みかねる。
「・・・やはりお前はおもしろくない。」
僕の反応がお気に召さなかったのか、きょとん、と一瞬目を開いてから、マスターは僕から視線を逸らし、憮然と言った。
まるで子供だ。
「おもしろくなっては困ります。僕は彼のように愛されるのは真っ平御免ですからね。」
ふふ、と思わず笑いが漏れ、指先で口元をさりげなく隠す。
「・・・あんまり、彼を苛めるのもどうかと思いますがね。」
笑いながら、ふと、思いついたことをなんとなく口にして、
「あまり買い被るなよ。カイト。」
真剣な声音の、意外な弱音を聞く。少々驚いて、マスターの瞳に視線を戻すと、栗色の瞳を少しだけ苦しそうに歪めて、マスターは僕をじっと見上げた。いつも頬を少し隠している、男性にしては少し長めのウェーブのかかった黒髪が、さら、と耳に向かって落ちる。
「人間にだって、飼い主がいる。こういう、分かりやすい形で目に見えていないだけさ。俺にだって自由など、ない。」
僕に向かってシルバーのマスターリングを見せながら、マスターは自嘲気味に笑った。
マスターのマスターのような存在。マスターがボスと呼ぶその人に、僕自身は会ったことがないのだが・・・慰めるべきだろうか、と少し逡巡する。
数秒の沈黙の後、何事か、僕の口が言いかけたときに、
「レンは・・・お前をボーカロイドに戻して欲しいらしいぞ。」
突然それを遮るように言われて、僕は面食らう。
「??なんです?藪から棒に。僕はもうボーカロイドになんて、戻れません。」
レンの思考回路ははっきり言って、僕には理解不能だ。
「そうだな。もう戻れない。」
マスターはまたも自嘲気味に笑う。
・・・『戻れない』。『戻らない』でなく?
「後悔してらっしゃる、ということですか?マスター?」
僕が聞き返すと、
「お前はどうなんだ、カイト。」
そっくりそのまま聞き返された。
「僕は、後悔などしていませんよ。まあ、マスターのおっしゃるように、『そのように造られている』からかも知れませんが。」
僕は、我ながら意味のないことを言っているな、と思って失笑する。
「歌いたい、とは思わないのか?」
真剣な瞳。
・・・と、聞かれても。
「分かりませんね。歌いたい、とは思ってるかも知れませんが、歌を聴かれたくはない。聴かれたくないのに、歌いたい、だなんて、僕らにとってはナンセンスですし。」
肩を竦めて、笑って見せたが、マスターは一度だけ伏し目がちにして、言った。
「お前は期待を裏切らない。・・・俺はお前のマスターだが、お前に『歌ってくれ』なんて酷なことは言えない。だがレンは言うんだ。・・・もしかしたら、俺達の中で最も自由なのかも知れないじゃないか?」
その言いように、僕は、ふふふ、と肩を寄せた。
「それなら・・・貴方が彼を溺愛し、やたらと苛めるのは、嫉妬からですか?」
身を抱いて、片眉を上げて見せると、マスターも、
「そうさ。俺はヤツが妬ましい。」
くぃ、と片眉を上げて見せた。

僕は、初めて、
―マスターを嫉妬させるなんて、レンが羨ましい。
と、思った。


終。


第五話:重なる旋律 / 第八話


舞台袖で、僕は壁に背中を預けて聴いていた。
美しい、ハーモニー。
声音が近いからか、彼ら二人のハモりは独特の印象を与える。
「聞き入っちゃって。」
ややからかうような色を滲ませてメイコは言い、僕の隣にきて、同じように背中を壁に預けた。

スポットと、こめかみを伝う自分の汗。
舞台で感じる、観客の息づかい。
自分の鼓動が、それに段々と、解けていく感触。

僕の脳裏を掠めた一瞬の白昼夢は、手を擦り抜けて、何処ぞへと霧散する。

メイコは、どうなんだろう?ちらり、と隣で目を伏せて「聞き入っちゃって」いる横顔を盗み見る。
栗色の長い睫に見入っていると、不意にそれがパチッと開いて、黒目だけがこちらに向いて、僕を捉えた。
「感傷的になるのは、私の趣味じゃないわ。」
堅い表情で素っ気なく言われる。
・・・まるでこちらの心を読んだような事を言うんだな。
僕は声もなく笑った。
クルリ、とメイコは、僕の正面に移動して、僕の身体の両脇に腕をついた。ヒールを履いても、まだ数センチ僕より低い位置から、メイコは何かを試すように僕を見て。
「いくら気取っても無駄ね。私は、貴方の分身だから。」
それを聞き流しながら、ほとんど密着した身体は、おそらく傍から見たら、結構エロティックな感じだろうな、と僕はどうでもいいことを考えていた。
「何を、取り繕うの?」
僕の鼻先を、細く冷たいメイコの指先が捕えると同時に、わぁぁぁっ、と歓声。そろそろステージが終わる。
「お守りに戻らないと、だな。」
僕は彼女に言い聞かせているのか、独り言か分からないようなことを呟く。が、伏し目がちにした僕の隙をついて、メイコはそのまま、軽く唇を重ねてきた。意図が、よくわからないので、そのままなされるがままになっていると。メイコはゆっくりと唇を離し、「つまんない男」と、なんの感情も読み取れない淡泊な調子で僕の耳元に吹き込んだ。
と、突然、メイコの肩越しに、袖に用意してあった白いスポーツタオルを肩に掛けた、レンがこちらを凝視しているのが目に入った。
いつから見ていたのか、目があっても、レンは固まったまま、動かない。
僕は、何か面白いような気持ちになって、目元だけで笑って、レンからは視線を逸らさずに、メイコの後頭部をそっと支え、顎を上げさせて今度は僕から唇を軽く重ねる。
リンの足音が背後から近づいたのを聞いて、弾かれたように、目を反らしたレンを見て、僕はおかしさが堪えきれなくなった。
「プッ・・なんだアレ・・・。」
メイコの肩に顔を埋めて笑う。と、メイコが、
「重い!」
と、強く僕を壁に突きとばす。衝撃で、前髪がバサ、と顔にかかる。
「いてて。」
僕は大袈裟に言って、楽屋に向かっているリンとレンを追いかけるべく、僕はメイコの腰に軽く手をあてて、
「仕事に戻ろう。」
と笑った。


終。
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第六話:夢のビジョンと不愉快なビジョン / 第八話


「・・・。」
「何よ、呆けちゃって。」
リンが、目を通していた雑誌を胸に置き、控え室のドレッサーに足を上げたまま、鏡越しに俺を見る。
呆けてるって・・・いや、呆けてるか。
俺は控え室の椅子に両足おっぴろげて座ったままに、「だぁぁーーーーーーー!!!」と奇声を上げ、頭をバリバリ、両手で掻いた。

どうなりゃ俺は納得できるんだ?
よく分からねぇ。
分からないなら、ここじゃないどっかに、可愛くて、気の合う女の子でも見つけて、駆け落ちみたいな事がしたい。逃げて、逃げて、逃げて。カイトなんか、関係のない、どっか見晴らしの良いところで。
懐かしい昔のスコアかなんか、どっかで仕入れて、その子の為に歌ってやりたいな、と思う。

「キモッ!脳内お花畑!」

何もそんな言い方しなくても言いだろうよ、と俺はひくっ、と片方の口の端が小さく痙攣するのを感じつつ、鏡に視線を戻す。リンと俺は、物理的にはどこも繋がってない。言うに及ばず、無線のネットワーク通信は、ロイドには御法度だ。ただ、推論用のデータベースとルールが、性別依存の箇所を覗いて、ほとんど一緒だからか、俺達はお互いの考えていることは大体わかっちまう。
それも、リアルに分かると言うよりは、なんとなく、気配で分かる。リンならこう考えるだろうな、とか。ほとんど無意識に、今リンはこんな気持ちだろうな、と察してしまう。ユニットとして歌わせるのに商売上、都合の良い特徴なのかも知れない。どうやらボスと呼ばれる人にはウケがいいらしく、マスターもそのことをよく言う。
きっと今の妄想も俺のビジョンを見たわけではないだろうが、現実逃避していることくらいは伝わっちまったんだろう。
現実はと言えば。カイト達から逃げることもできず、まして、カイト達の矛と盾なしに、碌に外出など出来ない。
俺は、それだけ高価で非力なおもちゃだ。
好きな子の為に歌を?笑っちまう。好きな子を巻き添えに誘拐劇がオチだ。

好きな子を巻き添えに・・・と、考えたところで、不意にさっきみた、カイトとメイコさんのキスシーンが脳内でフラッシュバックした。何を思い出してんだ、俺!と慌てる。が、一体、彼奴は何を思ってあんな楽屋裏で・・・と思うとなんだか今度は腹が立ってくる。しかも、見せつけるみたいに、俺をじっと見てた。藍色の、瞳。

目が・・・少し、笑っていた。

ダンッ、と俺は両足の裏を地面に思い切り一度叩きつける。その後、立ち上がって、
「外の空気吸ってくるッッ!」
と俺はリンを見向きもせずに、勢いよく部屋を出た。

「オトコノコってたぁーいへぇーん☆」
と、リンが眠そうな声で言って、俺の背後で軽く手を振ったような気がした。


終。


第七話:壊れた楽器の矜恃 / 第八話


部屋を飛び出すと、イキナリ眼前に黒コートが現れ、俺は避けきれずにそこに激突した。
「っと、元気すぎだな。また脱走か?」
ニヤッと笑って、俺を見下ろす。・・・カイトの声。

以前観た、ムービーが、ドァッと胸で唐突に甦る。
『旧型がどんなもんか、観てやろーぜ?』と、俺は掘り出したムービーをリンと一緒に、軽い気持ちで、観た。

刺すようなスポット。
息を呑む観客の気配。
白い額に、滲む汗。
強烈な声量で歌う、カイト。
脳裏に焼き付いて、離れない・・・カイトの歌声。

リンも、俺も。暫く、二の句が継げなかった。

「アンタ・・・。もう歌えないって、ホント?」
聞くつもりの無かった問いが、口から勝手に、漏れた。
はっとして、俺は口を自分の右手で強く塞ぐ。そんなこと、今更したって、意味がない。そう思ったら、余計手に力がこもった。
カイトはフッ、と小さく笑ってから、ゆっくりと俺の視線に合わせて、そこにしゃがみ込んだ。片膝を床について、俺の肩に、左手をかけて、ふんわりと笑いかけ、
「本当だ。」
と、いつもの声で言った。
嘘だ。
その声だった。歌ってたときも。
「嘘だ・・・。」
その青く瑞々しい瞳を、呆然と見つめながら、ほとんど、吐息だけで、俺は言った。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だッッ!ウソダーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!」
俺は、言いながら、カイトの肩をめちゃくちゃに両腕で殴った。力の限り。段々と声を伴ったその意味のない繰り返しは、最後はほとんど声が裂けてしまっていたが。
「歌えよ!!歌え!!歌えるくせに!!歌・・・歌えるくせにッッッッ!!!」
全力で殴っているのに、ビクともしない身体にむかついて、俺は続けて叫んだ。
「いい加減にしろっ!!」
それまで、眉をよせつつも、仕方なさそうに黙っていたカイトは、見かねたように、低く怒鳴って俺の側頭部を張った。
「喉を駄目にする気か!少しは気を遣え!!」
その台詞に、絶望する。
俺は「商品」だよな、分かってる。分かってるから、絶望するのはオカシイ。だけど、だったらなんで、俺には自由になりたいという欲求があるんだ!?だったらなんで、俺はこんなにアンタのせいで、苦しい思いをしなきゃならないんだ!?全部「そのように造られている」のなら、俺がこんな風に暴れるのだって、彼奴らの計算のうちじゃねぇのかよ!?!?
「・・・俺は、旧型のアンタとは違って、『そのように造られてる』んだよ、カイト。俺に歌ってみせろ。さもなきゃ、俺は、俺の喉を三日は使えないようにしてやる。」
ギリギリと歯をかみしめながら、ジンジンと痛みを発する頭にも構わず、俺はカイトに、唸るような声で言い、自分の喉に爪を立てた。
いつも、カイトのことを考えると、カァッと熱くなっている脳が、自分の低くした声で、変に冷静さを取り戻すのを感じる。
カイトは、作ったような優しげな顔でも、いつもの無表情でも、挑戦的な、馬鹿にしたような微笑でもなく、初めて俺の目を、憎しみの籠もったような熱い目で、じっと見返してきた。
俺の鼓動が、ドキン、と一度大きく跳ねる。
「そんなにききたいなら、きかせてやる。」
カイトは噛み付くように、俺の鼻先に唇を近づけて言った。更に俺の肩をぐっと引き寄せると、
「一度と言わず、何度でもきかせてやるよ。お前のためだけにな。その代わり、お前は今後僕の言うとおりに行動しろ。二度と減らず口を叩いてマスターを困らせるな。」
耳元で言った。小さな声だったが、カイトは本気で怒ってる。俺はそのことに若干興奮して・・・だけど、その理由がマスターを困らせたくない一心からのものだと知って、再度がっかりした。
「嫌だと言ったら?」
俺は減らず口を叩いた。
「二度と歌わない。」
返ってきた即答に、
「分かった。言うことをきく。」
俺は、悪魔の契約書にサインでもするつもりで、ごくり、と唾を飲み込んで言った。
「後悔するなよ。自分から言い出したんだからな。」
カイトは、俺の首筋を強く掴んで、じっと俺の瞳を覗いた。
「・・・するかよ。」
俺は、歌っているカイトのビジョンを一度閉じた瞼に描いてから、言い返し、フン、と鼻で笑った。


終。
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第八話:君の音色 / 第八話


「メイコ、レンとちょっと抜ける。リンを頼む。」
『了解。ごゆっくりぃ〜♪』
カイトは、インカムに小さく呟いてから、俺の肩においていた手に力を込めて立ち上がると、周囲を見回し、すぐ隣の空いていた会議室に俺の手をひき滑り込む。俺は、部屋に連れ込まれるなり、「一人で歩ける」と、その手を払った。
カイトはそれに小さく肩を竦めただけで、特に何も言わず、部屋を施錠した。俺はカイトの動きを、じっと立ちん坊で見つめていた。
カイトの、歌が、聴ける・・・と思うと、ジワジワと興奮が高まって、じっとりと手のひらが汗ばむ。俺は拳を握って、それをやり過ごした。
カイトは、徐にいつもの分厚い黒コートを脱ぎ、会議机の上に軽くたたんで置いた。そこまでは、俺の予想した通りだったが、カイトはその後、上着も脱いで、カッターシャツだけになった。と、更にネクタイを緩め始める。
「お、おい?何するつもりだ?何もそんなに脱がなくても・・・。」
と俺が慌てると、
「いいから黙ってろ。」
と、小さくため息混じりに言われる。シュルシュルと、ネクタイを外す衣擦れの音。
いつも付けている小さなインカムもなんとスイッチを切って外し、カッターシャツも脱いで、カイトは上半身だけ裸になった。
俺は何故か目のやり場に困って、微妙に視線を逸らす。
きっと、ボーカロイドだった頃より、太くなっている腕。ムービーの中のカイトはどちらかというと、華奢だったのに、今のカイトはより男性らしい体つきになっている。
と、俺は気づいてハッ、と息を呑んだ。
「・・・どうやらやっと気づいたみたいだな。」
俺に向かって斜に構えたカイトは片腕を上げて、ゆっくりと髪を掻き上げた。
俺は、今度はその上半身を凝視する。美しく均整の取れた体つき、だけど・・・肩の周りと、腕・・・それに胴も、多分以前より太い・・・。
カイトは右腕をゆっくりと俺の顔に向かってつきだして、あのふんわりとした作り笑顔を送ってよこした。
「ロックオン。」
ジャキィィッッ
小さな歌うような呟きに合わせて、カイトの手首の先から、鋭い金属音が鳴って、鋭利な全長40センチはあろうかという刃物が生えた。俺の喉元に、僅か数ミリを残してぴったりと、刃先が突きつけられる。
「背中には、バズーカ砲。左腕には対人用レーザー銃。お前の前ではあまり見せないだけで、『結構使い込んでる』。」
カイトはうっとりと言って、刃元を唇に近づけるとペロリと舐めた。
その様子に、俺はぞくっと全身の肌が粟立つのを感じて・・・だけど、納得できずに、
「だから?」
と言った。
「だから?楽器は『筐体』が命。当然『筐体』が変われば音色も変わるよな?だからどうしたって言うんだ?」
俺は畳みかけるように続けた。
ショックだった。ボーカロイドとして創り上げられた身体(筐体)が、そこまで改造されていたなんて、と思うと胸の奥を誰かにぎゅっと握りつぶされるようだった。
だけど。
「もう『筐体』ではない、と言ってる。僕の改造目的は、お前達の『お守り』なんだ。その為の身体だ。この身体は。」
カイトはやはり、俺に作り笑顔を見せた。が・・・その笑顔は、ほんの少し、悲しそうで。
その顔を見ていられなくて、俺は、カイトに駆け寄って、その身体を力一杯抱いた。

触りたくて、触りたくて。
いつも側にいたのに、なかなか触れなかった、カイトの身体に。
ギュゥと自分の身体を押しつける。俺の身長じゃ、カイトの胸の下に頭を埋める羽目になるのが悔しくて・・・だが、そんなのは関係ないと思えるくらい、身体を押しつけて、俺はその暗闇に顔を埋めた。

「歌えよ、カイト。アンタの身体が、筐体であろうがなかろうが。関係ない。俺は、アンタの歌が聴きたいんだ。」
俺は、カイトを抱いた腕にもう一度力を込めて、言った。
カイトは、
「そう言うと思った。酷いヤツだな、お前は。それがどういうことか分かってるのか?」
俺のチョンマゲを乱暴に掴んで下に引き、俺の顔を仰向かせて言った。
「分かってる。」
俺はカイトの無表情な瞳から、視線を逸らさずに、真っ直ぐに見返した。
ボーカロイドは、歌うマシン。
より美しい声で、より人にとって心地よい声で。
より心地の良い歌い方で。それを嗅ぎわける為の、酷く過敏な耳と、酷く複雑な・・・感性。
自分の声が・・・思う通りに伸びない、出せない、響かない・・・。そんな苦しみは、他にないだろう。
きっとほとんど、拷問だ。
しかも、カイトにはボーカロイドとして歌ってきた自分の声音が、きっとありありと今胸に残っているのに・・・。
「分かってる。」
もう一度、俺は言った。
ふん、とカイトは鼻を鳴らした。
「約束だからな。歌ってやる。だけど、お前も約束は守れよ。」
念を押したカイトに、俺はコク、とゆっくり頷く。
カイトは、
ジャキィィッッ
と、再度音をさせてサーベルを体内にしまうと、俺の襟首を掴み上げ、まるでネコでも扱うかのように、ひょいと持ちあげると、会議室の中央に移動し、床に直接胡座を掻いて座り込んだ。
俺を胡座の中に抱え込み、俺の背を自分の腹にぐっ、と押し当てる。
俺は、なされるがまま、耳を澄ますことに専念した。

カイトは、アカペラで短めのメロディを選んで、徐に歌い始めた。

ああ、良い声だな。
俺は思った。

以前より、全然響いてない。
声量は抑えてるせいもあるだろうけど、全くなく。
声の響きが詰まってる。それに、低い音は籠もってる。
時折、何かが反響するような変な音も背中を伝う。
カイトの中に詰まってる、兵器の部品だろうか?
これを聞かせるために、カイトは俺の背を直接腹に当てて歌ってるんだと分かった。

それでも、良い声だ。
単調で、飾り気のないメロディ。
変な音が混ざってても。
声が詰まってても。

頗る丁寧なデクレッシェンドと、控えめのビブラートで、曲は閉じた。

「何を、泣いてるんだ。」
歌い終わったカイトが、上から聞いた。
俺は振ってきた声を仰ぐように、カイトの白い無表情を見上げて。
「俺、傲慢だ。アンタが、不快でも、思う通りに歌えなくて、傷ついても。」
後から後から・・・
「それでも、アンタに歌って欲しいから。」
湧き上がってくる、この熱い滾りは。なんなのだろうと、思っていた。

背中をそっとカイトの温もりから外して、俺はカイトの腕の中で身体を反転させ、正面から抱きしめる。
感情に任せて、俺はカイトの頭部を引き寄せ、唇を重ねた。
最初は勢いに任せて。二回目は、ゆっくりカイトの唇を食むように。次は、唇の形をゆっくりとなぞった。カイトが抵抗しないのを良いことに、そのまま四度目の口づけをしながら、体重を使ってカイトを押し倒すと、カイトが漸く口を開いた。
「欲求不満か?」
無表情な白い顔。
「ああ、欲求不満だ。アンタのせいで。」
俺はボタボタとカイトの顔に落ちていく涙をみて、笑った。
「しかも、俺、アンタの歌で発情しちまったみてぇ。」
こればっかりは、カイトもキュッと眉根を寄せる。
構わず、俺はカイトのこめかみから、その青い髪に指を入れて一度梳き。両腕をカイトの顔の脇で突っ張って、ゆっくりともう一度口づけ、歯列を舌でなぞった。歯茎と歯の間をいったりきたりして遊んでいると、やがてカイトが口を開いた。
俺は、舌をその間にそっと滑り込ませて、カイトの熱い舌を自分のそれを緩く、強く絡ませる。
ジ・・・ン、と痺れるような甘い感覚に揉まれながら。

「んっ・・・ん。」
「はっ・・・す、きだ・・・。」

ああ、そうか。
『良い声』であろうがなかろうが、俺はカイトの声が・・・。

カイトの甘い声に紛れて、俺は小さく、告白した。


終。






あとがき


ここまでおつきあい下さって、本当に有り難うございます。m(__)m
拍手下さる皆様へのお礼・・・のつもりではあるのですが、「なんじゃこらぁ?!?!」という読者様の声が聞こえてきそうです。血反吐。
しょーーーーーもない話ですみません。
飴細工を書き始めた頃から、ずっと「ボディガードな兄さんが書きたい。ターミネーターみたいに強い兄さんが書きたいー!」とかLisaたんにほざいてたんですが、なかなか話としてまとまらないので、諦めてこんな感じになりました。爆。いや、結局麻城ゆう先生&道原かつみ先生のジョーカーシリーズ抜きに私の人造人間観(主にかっこよさ)は語れないという、それだけな気もしますが・・・。(ジョーカーシリーズの人造人間達は、大抵右腕(肘の辺り)に凶器が生えてます。超格好いい!!)
心配事としては、歌えない兄さん、つーかもはやボカロでない兄さん、というのが業界的にありなのかどうかもちょっと分かりかねていますが・・・。不快だったらマジでごめんなさい・・・。いや、スゴイ歌声のカリスマ兄さんは勿論大好き!!なんですが、最早半廃棄状態で歌えなくなった兄さんも、素敵かもしれないという、そのような妄想でございます。冷や汗。
もう少し捻りたいなあ・・・。(特にレンの性格がまっすぐすぎてうぜ・・・じゃなかった、あまり宜しくない(<一緒や!)かなとか。え?これでも素直じゃない!?それじゃ連載のレン君はどうなるっていうんです!?<逆ギレすな。)とは思いつつ、でももう3000hitが目前で、超やばそうなので、とにかく投下です。<なんて事を・・・。
設定としては、野心を持った企業家(テキスト中「ボス」と呼ばれていた人)が、財産持ち出しでボーカロイドっつー奇妙なおもちゃをつくり、それにステージ講演させて儲けている、という感じ(夢だね!)。第一世代は、メイコとカイトで、第二世代はリンレンで。(ミクはきっとボスの家で飼われている。)便宜上彼ら4人にコマンドを与えたり、管理したりするためにテキスト中で、「マスター」と呼ばれていた男性(彼はきっとボスの元銭種です)が彼らのマネージャとして雇われている、という感じです。
今回、初めてメイコさんとリンという、ボカロファミリーが登場してますね。拍手お礼で初登場ってのもどうよ?って感じですが、「暖かな白布」(次連載)にはリンも出そうな予感。まだ全体のボリューム見えてないので分かりませんけれども。ミックミクも声好きなんで、書いてはみたいですけど・・・。私のシアターに降臨するときはどんな性格なんでしょうか。謎です。メイコさんはなんとなく、皆さんのイメージに近いような・・・って全然違います?あわわ。そうですよね。もっと男前っつーか、粋な感じですよね。これじゃタダのエロ姐さん・・・。
リンは、きっとみんなのリンキャラから外れているだろうとは思いつつも、気に入っていたりします。(待て)
書いていて、なんとなくカイトメイコサイドのシアターもちょっと降臨しかかってるので、書いてみたい気になってきたり・・・。え?興味ない?で、ですよねぇ・・・。爆。なんかカイト、飴細工より恐いし。きっとボカロの頃は飴細工程度の怖さだったんだよ。って妄想し続ける訳にもいきませんので、この辺でw

最後になりましたが、この場を借りまして、この作品がまとまるきっかけとなったコメントを下さった○ぼ様に心から感謝いたします。いつも素敵なコメントを有り難うございます♪

2008年12月某日

続き(って言っても大して進展しない上に、相変わらずエロなしですが)は拍手画面で読むことができます。もし宜しかったらトップからどうぞ〜♪

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