ある日のリビング 飴細工の二人
「なぁ、なんか歌って。」
暇そうにしてる、そいつに声をかける。
「今忙しい。」
嘘付け。
「暇そうじゃん?」
テレビは三流コメンテーターのつまらないコメントを垂れ流している。
「忙しいの。」
部屋には、さっき俺が淹れたコーヒーの香り。
そいつのジェスチャでチャンネルが切り替わって、リラクゼーションの音楽と映像が流れる。
「ねぇ、なんか歌ってくれって。」
こっちを振り向きもしないそいつに腹を立て、俺もそっちを見ないように注意しながら、ソファの背もたれに体重をかけ、そのまま上に伸び上がる。早く背が伸びますように。なーんちゃって。
「うるさいよ。」
何をテレビにかじりついているんだか。どうせ見てもいないくせに。第一ボーカロイドにとって、歌ってくれ、というのは特別なリクエストであって・・・
考えているうちに、視線はそいつの伏せた睫に集中する。あれ?見ないでおこうと思ったはずなんだが。光に透けて、長い睫が綺麗だ。綺麗・・・綺麗ってなんだ?
知らないうちに、見入って黙り込んでいたみたいだ。
「急に黙ったね?」
それに気づいたそいつが微笑しつつ、こっちを見る。青いなぁ、目が。濃いなぁ、その色。俺の碧とえらい違いだ。
「なぁ、チュウしない?」
・・・沈黙。
「君、どうかしてんじゃないの?」
呆れたようなそいつの顔。そして、ため息。
ああ、そう、多分・・・どうかしてる。
このどうかしてるロイドにつられて、俺もどうかしちゃったのかも。
革張りのソファに、むき出しの俺の膝が、ペタっと張り付く。あれ?いつの間に移動したんだっけ?もっと近くで、その瞳が見たいとは思ったけどな。
「んっ・・・んー!」
あれ。結局無理矢理チュウしちまったな。おかしいな。
「何?」
「この後、観たい番組あるんだけど。」
間近で光る、藍色の瞳。
「残念☆それは俺の用事の後になるな。」
「ちょ、邪魔だって!」
既に不利になっている体勢から、そいつはのしかかる俺をのけようと手を突っ張る。結果、少々揉みあう。
「いーから。」
「んん・・・。ん・・・ふ。」
抵抗が止む。もう観念した?それとも、お得意の「めんどくさくなった」ってヤツ?
なぁ、ドキドキしろよ。
俺の鼓動が俺の意思と関係なく、勝手に速度を上げてるみたいに。
ドキドキしちまえ。
あ、ちょっと鼓動のスピード上がった?
それともこれ、俺の心臓か?
もう、どっちでもいいや。
「いっつも、と、突然発情するっ。」
抵抗は止んだものの、睨むようにそいつが下から見上げる。でも、もう、少し目が潤み始めてる。もしかして、快感に弱いとかいうやつか。エロいな。いつもだけど。
「ちょ、きいて、ンの?・・・ハッ・・・ん。」
聴いてる。すげぇいい音。いい声。
こっちも息が弾んでくる。その肌の触り心地がいいのは、いつものことで。その筋肉の凹凸に俺の手や指の凹凸がぴったりなのも、いつものこと。
「駄目だ。」
俺の声が掠れる。その台詞にか、その吐息にか、それとも、早速下着に潜り込んだ俺の手にか、そいつの身体はビクン、と一度はねる。あーあ、いつものごとく、「衝動」の方が目覚めちまった。こうなったら、俺の理性に出来ることは限られてる。
やる気なく、俺の腕を押し返していたそいつは、だんだん縋ってるみたいに俺の腕を強く掴み始める。
「アンタが、エロいのが、悪い。」
結局この台詞だ。
「どっ・・・ち、がっ!」
うん、もう、どっちでもいいや。
終。